あるブログで紹介されていた本を手に取ってみました*1。 ジョブ型雇用どうこうを理解する上でまずメンバーシップ型雇用をとらえなおすという趣旨のものです。
「「働き方改革」と「メンバーシップ型雇用」」という終章の中では、長時間労働の是正と同一労働同一賃金のふたつをとりあげられ、メンバーシップ型雇用の特徴を論じておられます。
正社員は、広域転勤や出向といった無限定性の拡大という(おそらくサービス残業等も)、つまり長時間労働と引き換えに賃上げや一時金の増額を受け取っている。そして、その黒子としていわば賃上げを諦めた非正規社員が支えている実態があること。また、この正規/非正規の雇用タイプを、M型/F型という軸で分析し「働き方改革」は「暮らし方改革」と表裏一体なこと。効果的な改革の提言もされており、要所はF型への着手であると。
さらに勉強になったのが、ダイエー労組が1969年に「長期賃金五か年計画」を策定するなかで職能給を選択していく経緯でした。当時最新のアメリカ流を導入したチェーンストアのダイエー、大量に採用される労働者は、しかし賃金についてはアメリカ流の職務給ではなく職能給(能力主義)を志向したこと。賃金の基準は仕事ではなく人であったこと。そして、(人事管理に親しんだ方であればご存じの)弥富式ではなく、不条理な評価を排除する工夫をしながら原則的に楠田式を選択したこと。”不条理な評価を排除する工夫”とは、含みのある表現です。
太平洋戦争後、何度か日本では職務給導入を図る動きがあったのですが、1960年代の労組は定期昇給(そのセットである人事評価)という能力主義に期待し、会社側も長時間労働と引き換えに合意したというわけでしょう。それが今日まで続くメンバーシップ型雇用であり、その主役であるM型雇用の陰で黒子であるF型雇用が一種の矛盾を引き受けているのが、わが国の社会構造であると。
この本を読みながら思い出したのが三島由紀夫の小説『絹と明察』でした。新潮文庫版では田中美代子氏のこんな解説があります。「葬り去られたはずの駒沢の亡霊が、近代化の果ての富み栄える日本に取り憑いて、奇妙な支配力をほしいままにする・・・やがてそんな時代がやってくる。”青春”は敗北するのだ。」
メンバーシップ型雇用の根の深さをしみじみ感じる一冊でした。
*1 『メンバーシップ型雇用とは何か』本田一成 旬報社