「現場が!直接?」と謳う、人材サービス企業のCMがあります。
日本企業は、人事部門が(特に正社員の)採用と退職までを掌握するのが一般的です。パートタイマー等の非正規社員に限って現場責任者に裁量を持たせる職務権限になっている場合もあります。
このところのメンバーシップ型雇用からの脱却の流れで、この長く慣れ親しんできた組織体制からも脱却できるか、人事部門から権限を奪えるかがひとつのハードルと捉えられています。「そんなの、やりゃいいじゃないか」「くたばれ人事」と気楽な反応も聞こえそうですが、事は案外複雑です。
冒頭のCMも巧みで、現場が採用するとは言わず、現場が採用したい人物を伝えるとしているもの、この問題の難しさを理解されているからでしょう。この難しさの代表例は次のような事柄でしょう。
現場が直接採用した正社員は雇用の維持が図りにくいです。たとえば、これまではA事業で採用した人材がなんらかの理由で不要になったときB事業に異動させて雇用を維持してきました。現場が直接採用した場合はこの調整が難しいわけです。現状でもパートタイマー等がこのような状況に置かれたときどのように扱われているか想像してみればよく理解できます。
メンバーシップ型雇用では労働者は、人事異動や長時間労働といった無限定性を受け入れる替わりに、賃金上昇と雇用の安定を得てきました。そのために人事権を本社に集約させる組織体制ができあがったといえます。さらに、この仕組みは労働法体系、社会保障や学校教育とも絡み合い、ひとつの社会制度になっています。
つまり、本気で「現場が!直接!」と言い切る場合、会社も現場責任者も、雇用の安定等について社会制度レベルの責任を持つ覚悟が必要で、少なくとも労働組合の要求や世間からの評判を受けとめなければならないわけです。
この人材サービス企業は攻めたサービスを提供するものだといつも感心しております。きっと、このサービスも便利な機能なのでしょう。