NHKの連続テレビ小説「らんまん」。第10週は主人公の万太郎が印刷所に弟子入りして技術を学ぶストーリーでした。
明治時代前期の印刷所の様子が興味深く、工場には親方がいて、かつて浮世絵を手掛けていた彫師を筆頭に摺師や見習いが組になっています。住み込みで働き、まずは掃除・洗濯で奉公しながら、兄弟子たちに気に入られれば仕事を教えてもらえるわけです。きっと時代考証もされているでしょうから忠実な描写なのでしょう。
日本の生産現場について有名なものとして、明治政府が残した『職工事情』があります。
当時の農商務省が行ったこの調査によると、明治前期は日本の労働移動率はほぼ100%であったそうです。たとえ大資本の生産現場であっても、ドラマにあるような親方を中心とした組が生産を牛耳っていて、自分と弟子たちの雇用条件に不満があれば組全員を引き連れて、条件のいい職場に渡っていく事情が記録されています。ところが、当時は日清・日露戦争を控え工業生産が盛んになっていて、次第にこのような渡り職工たちと資本との間で争議が絶えなくなってきます。
そこで、資本側は修学したばかりの年少労働者を直接に雇い、子飼い職工として会社自らが育てるようになります。もちろん、こういう労働者は会社への忠誠心が高く、定着することになります。また、20世紀を迎えるころにアメリカで登場したF.W.テイラーの「科学的管理法」を取り入れるなどして、生産現場は急速に近代化していきます。ここに、労働移動率が低く組織的な、現代まで続く雇用の基礎が築かれたわけです。
それでも、かつてあった徒弟制度的な雰囲気がまったく消えたかといえばそうでもないように思います。
人間関係に気遣いながら職場に馴染んで、修行のように周辺業務から核心業務に進んでいく様子などは現代の職場でも見られます。明治時代といってもせいぜい150年前。社会の根本はそう変わらないのでしょうか。