人的資本経営が注目されていますが、知的資産経営との関係はどうなんだろうかと気になりました。どちらも経済産業省が提唱するもので、公表資料を読むのですが何が違うのか書いてない(よう)です。人的資本経営を説く「人材版伊藤レポート2.0」*1 にも“知的資産”という語句は全く使われていません。あえて使われていないのかもしれません。
そこで、無謀にも私なりに整理を試みたいと思います。
まず知的資産は人的資産・構造資産・関係資産で構成される、と教科書には記載されているはずです。ここから思うに知的資産の概念階梯としては、“知的>人的”の関係がありそうです。たしかに、知的資産には組織全体のネットワークといった要素もあるので知的は人的より広い概念でしょう。しかし、知的資産の源はあくまで人材(人的)である、と考えると人的資本経営の場合は“人的→知的”というように因果関係とみればよいかもしれません。
資本と資産の違いも気になります。人的資本経営では資本であることに殊にこだわる記載が解説本などでは見受けます。資産は消費される存在であるが資本は投資なのだ、と。ただ、知的資産経営においても、知的資産が単に消費されるだけのイメージかといえば、そうとも言えません。いわば、生産現場で大事に使われている建物や装置のように経営に欠かせないもの、といったイメージでしょう。私なりに理解すれば、人的資本経営の考え方では貸借対照表の資産の部に人材は現れないのです。そのなると知的資産でいう資産とは何なのか。ここでいう資産とは会計学的な比喩ではなく、あくまで継承すべき財の総称としての意味でしょうか。
こいうふうに整理していくと、人的資本経営の結果として知的資産が様々な姿で現れる、中には人的な姿をまとって現れる場合がある、というふうに考えれば少し腑に落ちます。知的資産経営は事業承継と密接なので後継者(人材)も含めた継承すべき財への焦点化が欠かせなかったのかもしれません。
*1 「人材版伊藤レポート2.0」経済産業省 2022.5.13 https://www.meti.go.jp/press/2022/05/20220513001/20220513001.html