2024年春闘の報道では主要企業が昨年に引き続き満額回答したことや、中には労働組合の要求額を超える回答があったと報じています。この流れが中小企業にどのように波及するかが注目です。
こんな中で、日本郵政グループの報道に目が止まりました。記事によれば、「日本郵政グループ労働組合(JP労組、約22万人)の資料などによると、労組側は一般職と地域基幹職を統合し、賃金体系をそろえるよう求めている。(中略)これに対して会社側は、職種の統合には雇用・賃金体系全般の見直しが必要だとし、定期昇給を廃止する可能性も含めて議論するよう提案した」とのことです*1。
「定期昇給をもう止める」という考え方はアリだと考えます。日本的経営の基本理念である「長期的視点に立った経営」および「人間中心(尊重)の経営」との整合を考えてもそういえると考えます。
定期昇給を前提にした賃金体系は若年労働者や正規労働者以外の処遇が低くなる原因になっていて、現代においては、これが人間尊重から遠ざかっているといえないでしょうか。特に非正規労働者は日本的経営がもたらす矛盾をずっと引き受けてきました。非正規労働者の雇用者に占める割合が小さかった頃は目を逸らしていたところですが、いまやそれは3割を超える状況であることを考慮すべきです。
また、長期的視点に立った経営という点においても、多くの企業で労働力の獲得は最優先課題と考えます。つまり、若年層の採用合戦に勝ち、あるいは多様な人材(たとえば高齢者やパートタイマーなど)が離職しないよう引き止めないと経営が維持できません。
そのためには処遇の改善が必要になります。現状賃金体系維持の立場では全体のベースアップが理想のように思えますが、実はこれでは問題の解消にはなりません。そこで、右肩上がりの定期昇給を止めて、上がり方をなだらかにする方法をとったうえで必要なベースアップを行うことが策となります。いわゆるジョブ型といっているのも、賃金制度の設計技術としてみたときには、この上がり方をなだらかにする方法のひとつになると考えます。なお、定期昇給をもう止めるといっても全くゼロにするわけではなく、狭い範囲給とする(上がり方をなだらかにする)のが合理的であろうと考えます。
ところで、日本郵政グループ労働組合といえば、むかしもいまも労組の代表的存在。会社の提案に対してどのような決断となるか、この議論の行方に関心を持っておきたいと思います。
*1「「定期昇給廃止」も視野に賃金体系見直しへ 日本郵政が労組と協議」 朝日新聞デジタル 2024.3.12配信