人事評価者研修の場で、ある評価者から「嘱託社員やパート社員の能力評価はどのようにしたらよいか」とご質問がありました。かつての上司であったり先輩である嘱託社員、自分より経験年数の長いパート社員の能力を評価するなんて難しい、という気持ちもうなずけます。多くの企業では能力および業績の両面で評価されると思いますが、この研修先も同様で、正社員同様に嘱託社員やパート社員に対しても同じ方法で人事評価が行われていました。非正規雇用も主要な戦力となり、正社員同様の動機づけを図る必要を感じているのかもしれません。
多くの日本企業で能力主義の人事が行われています。その効果は次のように整理できます。能力主義のもとでは人材は成長する前提に立ち、企業の要請(究極には顧客の要望)に応じて柔軟に人材を活用できます。就業規則上は会社が昇進、人事異動や転勤を決定し社員はその命に従うことになっています。だから、人材の知識・経験を見極めるため能力評価を行うことになります(少なくとも人事の根拠を作ろうとします)。一方で、働く人の評価という点では業績評価の方が本来的です。能力主義と関係なく誰もが雇用契約のもとで職務・役割を有しており、その遂行結果をチェックされることは当然です。
人事制度を設計する場合、古くは「能力主義」、近年では「ジョブ型」といった人事の基本方針が重要となるのは、例えば先の質問のような問題が生じない首尾一貫した制度設計を行うためです。冒頭の質問にどう答えるか。制度設計した人事担当者の前ではお答え難いですが了解を得てお答えしました。嘱託社員やパート社員の場合は、その立場に必要な知識・経験を有する前提で雇用されていて、基本的に将来にわたって立場に変更はありませんし、求められている以上の(もちろん以下の)能力発揮も期待しません*1。ですから、能力評価を行う場合は「標準の評価」を原則にあまり踏み込んだ評価は行わない方が理にかなっています(要するに本当は能力評価はしない方が良い)。一方、勤務態度面や業績面は期待水準に対して実際がどうであったかを人事評価ルールと事実に沿って評価するべき、という答えになると考えます。
*1 もし、より高い能力発揮を期待したいのであれば年齢等に関わらず正社員として処遇すべきです。労働者側のスタンスとしても、嘱託社員やパート社員で昇進、人事異動や転勤と無縁であれば必要以上の能力発揮をしないのがあるべき労働者像でしょう。