新年度がスタートし、まだ4月というのに早くも退職する新入社員のことが話題になっています*1。退職代行という新手のサービスのことは置くとして、この事情は昔からあったことですし、辞める若者にも経営者や人事担当者にも同情をせざるを得ません。実務的にも社会保険の同月得喪という作業は労務担当者には面倒なので、辞めるにしてもせめて月をまたいでおくれと。
この話題に接するたびに「リアリティ・ショック」という言葉を思い出します。E.H.シャインがその著書で「人は(中略)組織との最初の全面的な関わり合いの現実は衝撃的」なのだと指摘しています*2。確かに古くから「後悔先に立たず」というし、特にキャリアを考えるときは現実の衝撃をどう乗り切るか、エントリーから社会化の過程における課題です。
これまでも本ブログで触れてきたように、わが国では素人同然の新卒者に最初はやや少ない給料ながら払い中長期的視野で育てていくスタイルです。すぐに辞められては、経営者としては数日でも給料を払わねばならないだけでなく、そして辞めた若者の方も辛い思いをするだけでなく、キャリアがスタートできないことは、双方とも計画の見直しが必要であり機会損失が大きいわけです。さらに内定から入社までも少なからず双方コストがかかっているでしょう。
雇用も契約ですから、契約を交わす双方でサービスレベルをすり合わせることが重要です。しかし、新卒採用の場合の難しさは、契約の当事者が「玄人(企業)vs素人(求職者)」となってしまうことです。経営者や人事担当者は素人相手と理解して丁寧に契約交渉にあたり、(売り手市場とはいえ)立場の低い求職者は労働条件を無条件に受け入れてしまいます(というか交渉しようがない)。新卒採用の場合はどうしてもこういう構図になるのだろうと思います。入社してからの新入社員教育でオンボーディングに力を入れる企業が増えていますが、入社前にもっと相互受容の一端でも深めておくことはできないものかと思います。
一方で、第二新卒採用やアルムナイ採用(出戻り採用)、過去に本ブログで触れたインターンシップといった手法がこういった事情への反応としてあるわけですが、今度の機会に触れたいと思います。
*1 「「話がちがう!」4月中に早期退職する新入社員…企業側は情報開示、就活生は自己分析を」 産経新聞web版 2024/04/20 11:47 配信
*2 『キャリア・ダイナミクス』エドガー・H・シャイン 著 / 二村敏子+三善勝代 訳 白桃書房 105p