今春、労働条件明示ルールに関する省令が変更されました*1。これからは労働契約締結時に就業場所・業務の変更範囲を示す必要があります。厚労省のパンフレットによれば、この変更範囲は「会社が定める業務」「会社が定める営業所」といったように示せば良いようですが、できる限り明確にすべきとされています。これまでも配置命令、特に転勤については会社が無制限に行使はできないとされていましたし、職種・勤務地限定で採用した労働者には労働条件を変更するときは合意が必要でした。このところ、職種や勤務地の限定を求職者が希望する風潮があります。さらに、いったん採用されても自分の想像と異なっていたら直ぐに退職してしまう若者たちのことも話題にされています。だからこそ、採用時に労働条件を明示し労使が意思を共有することは大切だと考えます。
さて、このような限定条件付きの雇用は一定のニーズが今後もあると思います。限定条件付きの雇用の典型といえばパートやアルバイトといった非正規社員でしょう。このところの求人難から、アルバイトの時給が正社員の給与(時給換算)より高くなってしまった*2、という現象が起きているそうです。このような現象は疑問視されがちですが、非正規社員は正社員より賃金単価を高くする制度にも意義があるように思います。実際に欧州では法制化されている国もあるようで、雇用に限定条件があるということは経営環境が変わり条件に合わなくなったら雇用を継続する必要がなくなります。つまり、正社員より契約解除リスクが高いはずですから会社都合退職(解雇)を容易化する替わりに賃金を高めにするわけです。
非正規雇用は、一般的に賃金が低く雇用も不安定という矛盾した状況におかれたまま雇用者全体における割合も高まってきました。先のような求人難がきっかけとなり雇用条件は限定されるが賃金を高めするといった考え方も取り込みながら企業としても上手く制度化して人材の確保、生産性向上、さらには公正な社会の実現につなげるべきではないでしょうか。
ただ、結果的に雇用が流動化した場合、そのメリットはあるものの、将来のわが国が本当に望む社会の姿なのかは洞察する必要もあると思います。
*1 令和6年4月から労働条件明示のルールが改正されます(厚生労働省)
*2 「バイト時給が正社員超え?非正規雇用の賃上げは【経済コラム】」NHK News web 2024年5月19日 0時40分配信