初任給がバブル状態だという報道を見受けるようになりました*1*2。労務行政研究所の調査(2024.4.10速報)によると2024年4月新卒初任給は次のような状況で、まず今年度初任給を引き上げた企業の割合は86.8%で約5~10年前の30%台から大きく変化し、金額は大学卒で平均239,078円(昨年度比5.4%増)となったそうです*3。
前回のブログで触れたように、賃上げが5%台ですから初任給も同水準で引き上がることは自然です。ただ今年注目されるのは、初任給だけが大きく引き上げられるかのような報道内容です。
これには、いくつか背景があるといえます。ひとつは採用難です。しかし単にこれだけの理由であれば、従来型の賃金体系を前提にするとベースアップ相当分だけ初任給も引き上げになっただけかもしれません。また、企業規模によっては最低賃金の引き上げも影響するかもしれません。
もうひとつは、いわゆるジョブ型の影響です。従来であれば多くの企業で初任給は一律(差があっても事務系/技術系の違いくらい)でしたが、職種によって初任給が大きく異なる形にする企業が現れていて、この点が大きく報道されているのではないかという点です。このようなジョブ型初任給の課題を二つほど挙げたいと思います。
1点目は、職種間異動にどう対応するかです。たとえば従来型の低い給与で雇われた新人が、自分も高い給与の職種に異動したいと言った場合にどのように対応するか(そもそも可能とするのか)、逆に任に耐えられないとされたとき他の職種に異動させたい場合にどうするのか(そもそも雇用を維持するのか)、ということです。従来の制度であれば人事異動・雇用維持を前提に給与も一律的であったわけですが、ジョブ型になると対応の難しさがあるわけです。
2点目は、既存の先輩社員たちはどうなるか、でしょう。恐らく年功的な要素を大幅に修正しなければなりませんが、過去に安月給で働いた先輩たちにどのように、いわば補償すべきでしょうか。また、このあたりを解決しなければ、先輩は若手の指導をしない状況になるに違いありません(そもそも社内教育体制を維持するのだろうか)。なかなか難しい課題ではないでしょうか。
基本的には、大いに初任給は引き上げるべきだと考えます。そうであるならば、中高齢となった先輩社員に対しても職責等に応じ公正な、また過去経緯を踏まえた対応と処遇をすべきだろうし、若手の指導を誰が行うかといった点についても整理することが重要であろうと考えます。
*1「富士通、一律初任給廃止へ ジョブ型新卒、40万円超も」共同通信 2024/06/21 15:51配信
*2「初任給バブル「賃金の若手シフト?」子育て世代の嘆き」 毎日新聞 2024.6.23 9:30配信
*3 東証プライム上場企業のうち152社が回答した決定初任給の調査 (労政時報 4077号 2024.5.10)