人事管理の世界では「賃金制度を見ればどのような企業かがわかる」とか、聖書の一節をお借りして「賃金はアルファでありオメガである」と言われたりします。
先日、メガバンクのひとつが年功序列を廃止したとの報道がありました*1。20代で年収2000万円も可能なのだそうです。加えて、中高年社員の自動的な給与引き下げも取りやめるとか。記事によれば「高い職責・役割を与えられて貢献してくれる人に対しては、しっかりそれに対する高い処遇を渡せる」仕組みだそうです。この点だけを挙げれば、従来型の能力主義賃金制度の考え方も実は同じでした。ところが、根本的な労働価値観が変わろうとしているのでしょうか。
従来型の能力主義賃金制度は人間の価値をベースにしています。年功給であれ能力給であれ人間の価値を基本にした労働力対価として賃金が決まる点にあります。そしてご存じのように、終身雇用、年功序列、退職金、人事異動といった人事管理のもとで、互い協力して社業にまい進するという考え方が主流でした。”いやいや能力主義の時代なんかとっくの昔に終わっている”という意見もあるかもしれません。しかし、見た目だけの人事制度がいかに多いことか。
結果、日本には、労使関係や社会保障制度、教育制度と結びついた社会制度としての外部労働市場は確立していないわけです(必要とされなかったというか、確立させなかったというか)。今回の報道のような状況は、人材不足という認識が外部労働市場があるかのような幻に影響を受けている点です。労働市場での価値が高そうな職務に対しては高い処遇を行う、そうしないと他社に引き抜かれそうだ、という恐れが今日あるということです。確かに素朴にとらえれば労働市場なのですが、社会制度とは到底いえず幻なのではと。
単なる年功序列の見直しは当然必要ですが、この幻が企業の在り方(たとえば組織や上司部下の関係)や社会の在り方にどのように影響するのか、安易に考えるのは危ういと思うわけです。賃金を見直すことは企業の、もっといえば社会の在り方を変えることにもつながる、ある意味で賃金は”万物の始まり”のような性質すら持っているのではと思ったりします。ハッピーエンドになることを願うばかりです。
*1 「20代で年収2000万円も!「年功序列」廃止 他の企業に広がる影響」テレ朝ニュース 2024/06/21 20:28 配信