今年の賃上げや夏ボーナスの作業が一段落した人事担当者が多いのではないでしょうか。中にはベースアップを初めて経験したという人事担当者もお見えになったのではと思います。先日触れた「ジョブ型の初任給」で書いたようにここ5~10年の間、初任給を見直した企業は毎年30%台でしかありません。初任給を据え置いた多くの企業では、恐らくベースアップもなかったのではと想像されます。よって、勤続10年未満の人事担当者の中にはベースアップを経験していない方も多いのではと思うわけです。
賃上げ業務の入門は巷の教科書に譲りますが、いわば補講としてちょっとしたテクニックをいくつか触れたいと思います。これからの機会にお役立てください。
(1)一律でなくてもよい
当前ではありますが、特にベースアップは、一律に底上げするか、たとえば等級ごとに差をつけ一律にしないか、など判断があります。一律の底上げの場合は、たとえば初任給を1万円引き上げたとき全員一律に1万円引き上げるのが最も簡単な結論になります。しかし、たとえば管理職等の高給者まで影響を及ぼすかどうかはきっと議論があるはずです。その場合は、どこかの水準で一律には引き上げない考え方になります(春闘の用語でいう「平均賃金」と「個別賃金」に相当する考え方です)。
(2)「差率」を埋め込む
たとえば号俸表のような賃金表があれば号俸ごとの階差が設定されているはずです。賃上げを行う際に、単に既存の賃金表のまま全体を底上げするだけでなく定期昇給にまで踏み込んでみると、より奥行きのある検討が可能です。たとえば、モデルで3~5年くらいまでの定期昇給は従来より引き上げる一方、10年以降は抑制するような考え方で号俸ごとの階差に違いを設けることも考えられます。
(3)この機会に年功的賃金プロファイルの是正を行う
ベースアップ可能な、つまり原資が豊富なときは大胆な見直しがしやすいものです。こういった機会だからこそ長年の課題の解決につなげてみたいものです。その代表格は年功的賃金プロファイル(賃金傾向)の是正でしょう。初任給を大幅に引き上げ中高年の賃金を抑制したいのだけれど、ベースアップ不可の状況では、中高年の減給になりがちで実行可能性が低いわけです。しかし、ベースアップ可能な状況であれば、最終的な賃上げは可能性が高まります。こういうときにこそ「一律でなく」また「差率」の考え方をうまく使い年功的賃金プロファイルの是正につなげてはどうでしょうか。
(4)ゴールシーク機能が便利
細かい話ですが、表計算アプリ(Excel)にゴールシークという機能があります。目標数値になるよう自動的にシミュレーションしてくれる機能です。たとえば「今年の賃上げ総額が○○円に納まるようベースアップ金額を試算したい」といったようなときに活躍してくれます。ベースアップ作業には誠に便利な機能です。詳しくは「ゴールシーク」で検索してみてください。いっぱい解説サイトが照会されます。
ここまで述べてきましたが最後に、賃上げをどのように行うかは会社(人事担当部署)だけで決めるべきのもではなく、労働組合や労働者代表との交渉が欠かせません。どのような賃上げをしたら社員が頑張れるのか、労使でよく協議して頂けることを願っております。