企業経営では人材を管理するための人事制度があって、たとえば人事評価をどうするか、賃金をどう決めるか制度づくりをするのですが、とかく時代のトレンドの影響を受けます。そもそも「制度とは何か。」社会学の教科書に引用されていた一文を思いださせます。
「一つの石を百度続けて同じ方向に同じ速度で投げたとしても、石はそのために習慣を作るということはないであらう。反復ということから習慣を説明する機械的な見方は卻けられねばならぬ」*1
この教科書は大きな社会の在り方を対象にしていて、企業という小さな単位を対象としたものではないわけですが、制度とは何か、という問いは共通していると考えます。単に経験的なものの積み重ねという性質ではなくて、何か理念的で観念的な性質があるかも知れない、ということです。古い言葉にも「手は扇を動かすが、扇は手を動かさない」という言葉が近いように思います。
ある学者がインタビューでつぎのように語っていました。
「私は基本的には、そう単純に言えないこともあると思うけれども、結局は社会の多数派の意思が、社会のありかたを決めていると思っています。現状および未来は、「あなたがたが望んでいるように」なっている。「こんなはずではない」っていうのは、よく解きほぐしてみると「あなたがたが望んだことです」としか言いようがないことが多いです。」*2
この言葉で大事だと思う点は「多数派の」のほうではなくて「あなたがたが望んだこと」のほうにあると思います。
企業という小さな単位においても「人材の管理をこうしたい」という理念や希望があって、それがあれば制度が変わる、あるいはそれがあったから制度が作り上げられてきたのであって、ただなんとなく世の中のトレンドに乗ればよい、あるいは乗ってきたというものでは決してないと考えるわけです。
*1 『制度論の構図』盛山和夫 創文社現代自由学芸叢書