(紹介する書籍)『SWOT分析による経営改善計画書作成マニュアル』嶋田利広・坂本力・尾崎竜彦 著 マネジメント社 2011年
1960年代に始まるSWOT分析ですが、いまや経営戦略を策定するとき当然のように、もはや漫然と行われがちです。そこで敢えて「SWOT分析って、やらないといけないのでしょうか?」と問を立ててみたいと思います。(なお、”SWOT分析とは?”については多くの教科書があるので説明省略します。)
SWOT分析にはその良さがあるものの限界もあるといわれます。限界の例は「経営環境を特定しても経営の方向性を示すとは限らない」「作成することが目的になりがち」などでしょう。かつて、ヘンリー・ミンツバーグが『戦略サファリ』の中で「プランニング・スクール」と表現しSWOT分析を含む戦略作成プロセスを「形式的」と言いました。「安定した、予測のつく、組織がコントロールできる状況においてのみ、ふさわしい」とも言いました。
また、変化が激しい現代の経営環境のもとでは「市場動向、顧客、技術革新」を視点とする大胆な経営戦略が提唱されてもいます。なのにSWOT分析は、現状をプリントするだけになりがちで変化を見逃す危険が指摘されます。さらに、表面的に言葉を並べればそれらしく見えることから資料作成すること自体が目的になる危険をはらみます。形式重視で、内容が手堅すぎ、文字数ばかり多い、行政や金融機関が好みそうな書類作業だと皮肉まじりに言う人もいます。
しかしながら、多くの企業にとってはSWOT分析の意義は失われていないと感じます。業種や社歴によっては経営環境は現実として固定的です。大胆な経営の変革は理想ですが、既存の経営維持も重要です。少なくとも既存事業に対してはこの方法が相応しいわけです。SWOT分析は、経営者や社員がわが社を見る眼が養われることを実感できます。また、そのわかりやすさが対外的な(行政や金融機関等への)説明の際に威力を発揮します。うまく活用することにより様々な面で効果があると考えます。今回紹介する書籍は、SWOT分析を行ときの実務要領が満載です。その中から私が勝手に選んだ点を2つだけ紹介します。
ひとつめは、「TOWS」の順番で分析すべきと提示している点です。脅威・機会を最初に念入りに検討することは経営環境変化に気付くチャンスになり、独りよがりな強みが先行したり、弱みに苛立ったりすることが防げるそうです。確かにそうで、SWOTの順に分析すると脅威を検討するころには力尽きておざなりになりがちで、その結果として説得力に欠ける経営戦略になる恐れがあります。外部環境については、本書に示されている5FやPESTの観点で深く掘り下げることは価値があります。
ふたつめは、本書は分析観点の記載が親切・豊富で実務的に助かるところです。抽象的で観念的なとらえ方を戒めるためでしょう、多すぎるくらいの文字数で具体的な事例を示しているところが実用的です。
「SWOT分析って、やらないといけないのでしょうか?」という問いに対する答えは「漫然と行うべきではなく、目的を定め、効果と限界を見極め、関連する他のフレームワークも使いながら行う」と考えるべきでしょう。そのときに参考になるのが本書だと思います。