(紹介する書籍)『日本企業はなぜ「強み」を捨てるのか』岩尾俊兵 著 光文社新書 2023年(増補改訂版)
日本の経営は過去の一時期、世界を席巻した。しかし、日本の産官学は「強みを捨て、弱みを海外から取り入れる」という失敗をおかす可能性もあった、と本書は指摘しています。こうした状況におちいったのは、第一に、日本の根拠ない悲観論や自虐的自己評価にあった。第二に、日本企業は日本の経営を抽象化・論理モデル化を苦手としてきた。その理由は、日本社会の特長である文脈に深く依存した緊密なコミュニケーションの強みのせいだった(つまり他者に分かりやすく説明する必要がなかった)。第三に、アメリカがコンセプト発信のプラットフォームを押さえている。これらを踏まえ「日本式経営の逆襲」に打って出るべきと提言しています。
私はこの本のタイトルを知ったとき思い出したのが「『なぜ日本企業は強みを捨てるのか』小池和男 著 日本経済新聞出版社 2015年」でした。大変よく似たタイトルだったため、もしかしたらオマージュ的な本なのかと最初は思い、少し期待しながら読みました。しかし、岩尾氏の書籍には小池氏ことについて触れられることはなく、少し不思議なのです。
また、岩尾氏と小池氏が双方ともたどり着いたところには共通性があって、それは「価値創造の民主化(岩尾)」であり「従業員代表を役員会に(小池)」です。「価値創造の民主化(岩尾)」は、人間が価値創造の主役だと考えて、従業員と経営者の両方が協力し合うことを提唱しています。いっぽう「従業員代表を役員会に(小池)」は、(アメリカ一辺倒でなく)欧州の従業員代表制を参考に、長期の競争の要件として従業員が選らぶ代表を役員会に参画させることを提唱しています。
このようにタイトルだけでなく最終結論までよく似ています。研究者である岩尾氏が小池氏のことを知らないわけはありません。あまりにも似すぎているから敢えて触れないのだろうかと思ったり、学者の世界ではそういうものなのだろうかと思ったり、私にはちょっと不思議でした(事情をご存じの方がお見えであればぜひ教えてください)。