(紹介する書籍)『戦後労働史からみた賃金』小池和男 著 東洋経済新報社 2015年
本書は、前回の読書感想において本文中で取り上げました小池和男先生が晩年に遺された書であります。労働史を取り上げた研究は他にも多くありますが、小池氏が伝えたかったことは私なりに理解するところ、「ブルーカラーのホワイトカラー化」であり「日本企業の持ち味を世界へ」という点で一貫していたと考えます。
小池氏は、日本の生産現場におけるブルーカラーの知的熟練(その現象の例として、現場が自ら改善する等)を評価しました。海外ではホワイトカラーだけ認められる知的熟練ですが、日本では生産現場でも認められ、ブルーカラーとホワイトカラーを共通化させてきた日本企業の仕組みを「持ち味」として肯定しました。
戦後労働史として多くの人物が取り上げられていますが、独断ながらここでは金子美雄氏と楠田丘氏に注目したいと思います(この両氏については、人事制度に関わる者であればご存じかと思いますので紹介は割愛します)。まず金子氏についてですが本書中に面白いエピソードがありました。戦後間もない頃の日本は過剰人口を悲観する議論が支配していて失業対策が真剣に考えられていたのだけど、完全雇用の可能性を指摘したのが金子氏であったとのこと。本ブログ で2023年8月25日に人口のことに触れましたように、現代の状況は人口減少のほうを悲観しますが、人手不足もあって老若男女に雇用機会がある状況が本当に問題なのだろうかと思えたりします。また楠田氏については、金子氏の衣鉢をつぐ者と評されています。楠田氏は職能資格制度を提唱されましたが、小池氏の評価としては、ブルーカラーの知的熟練の掘り下げが不足していたこと、海外への適用性が欠けていたことがご不満のようです。しかし私の思うところ、楠田氏の経歴から、海外への適用性には機会が恵まれなかったかもしれませんが、概ね小池氏の考えに近いような気がします。どうも小池氏は、いわゆるコンサルタントのような実務家にかなり厳しく、楠田氏といえどもなかなか評価されないようです。
さて、本書には小池氏の学識が盛りだくさんですが、賃金制度面に絞れば結論は次のとおりと考えます。ひとつは、日本企業が職能給等により実現してきたように社内資格給(pay-for-job grade)により高度人材形成を進めること。ふたつめは、この方式は日本だけの特色ではなく世界的に広めること。
いまの時代だからこそ小池氏の遺した言葉をもう一度噛みしめてみたいと思いました。