衆議院議員総選挙があります。今回の選挙で「最低賃金の引き上げ」を多くの政党が訴えています。公約には金額が明記されるものそうでないものありますが1,500円がひとつの目標・目安とする場合が多いようです。地域別最低賃金は全国加重平均額で1,055円(令和6年10月より)になったばかりで、「1,500円なんてとんでもない」という声がある一方で「払わぬ経営者は失格」という意見もあります*1。
この1,500円という金額はこういう見方もできると考えます。
問題になっているのは非正規労働者の処遇の低さです。なぜ低いのか。一般的に非正規労働者は臨時的・補助的な職務を担うとされているため正規労働者より低い立場に扱われることが多いものです。その結果、たとえば熟練のパート社員でも正規の新卒社員より立場が低い場合があります。新卒社員の賃金がいかほどかといえば、令和5年の賃金構造基本統計調査結果によると平均初任給の最低額は183,200円(高校卒・女子)となっています。この金額を時給換算すると1,145円(月所定労働時間160時間として)ほどとなります。さらに、正規/非正規の処遇差を考慮し正規労働者には支払われる賞与や退職金も加味すべきで、それぞれ年間に2.5か月+1.0か月と仮定するなら、時給換算額は1,479円になります。つまり、入ったばかりの(素人同然の)新卒の子でも既にほぼ1,500円レベルに達しているわけです。
熟練のパート社員のほうがよほど仕事ができても、新卒社員より立場が低いという問題。同一労働同一賃金がひとつの解決方向ですが、これを正面から行おうとすると最低賃金の上昇が正規労働者も巻き込んで全体のベースアップにつながってしまいます。これは現実問題もあってなかなか対応は複雑です。
最低賃金の種類には、地域別最低賃金と特定最低賃金があります。できるかどうかは別として、非正規労働者だけに適用される特定最低賃金を労使協約で定める方法はあり得ぬものでしょうか。場合によっては、非正規労働者のほうが高い最低賃金になっても構いません。実際に諸外国では雇用条件が限定される労働者は限定されない労働者より高い最低賃金を示している例もあると記憶します。
非正規労働者だからといって臨時的・補助的な職務に限ることはないはずで貢献に相応しい処遇を行うべきと考えます。あわせて、解雇規制や所得の壁も見直し、いまや労働者の38%にも上るという非正規労働者の処遇を早急に見直す時機にきているのではないでしょうか。
*1 「“最低賃金1500円”巡り「払わぬ経営者は失格」 同友会・新浪氏」毎日新聞 2024.10.18