ある本に次のような問いがありました(一部修正しております)。
「スーパーの非正規雇用で働く勤続10年のシングルマザーと昨日入ってきた高校生の女の子とが、なんでほとんど同じ時給なのか?」*1
この問いには3つの回答があるそうです。
(1)賃金は年齢や家庭状況を考慮すべきだ(同額なのはおかしい)。そして、シングルマザーが正社員になれる社会にすべきだ。
(2)同一労働同一賃金なのが原則だ(同額なのは正しい)。むしろ、シングルマザーが資格・学位をとってキャリアアップできる社会にすべきだ。
(3)労使問題ではなく児童手当や社会保障政策で解決すべきだ(同額なのはやむを得ない)。だが、最低賃金を切り上げ、学位・資格・職業訓練などの取得機会は公的に保証されるべきだ。
どれもが「正義」。あなただったらどう答えるか?と著者は問いかけます。なお、この著者は、現代日本では(3)を目指すべきだとしました。
この問いに近い同様のものは色々と思いつきます。これも、ある本に紹介されていたものです。
「英語しか話せない講師と、英語もドイツ語も両方話せる講師、どちらの方が時給が高いでしょうか」*2
さらに、コンサルの現場にいると次のような問いも良く遭遇します。
医療職の例:「急性期病棟の看護師のなかに他の資格をもつ看護師と他に資格を持たない看護師がいます。給料をどう決めたら良いでしょうか。」
製造現場の例:「製造業の現場において、検査や工務などの経験がある組立工と、この道一筋の組立工のどちらの賃金をより高くすべきでしょうか。」
事務職の例:「メンタルヘルスの不調から一時復帰した経理課主任に新人と同じような仕事を担当してもらっています。主任のほうが新人よりずっと高い賃金を得ていますが、これで良いのでしょうか。」
人事屋たる者はこれらの問いに、依頼企業の状況も踏まえ理由を添えて答えられなければ、と思います。
*1 『日本社会のしくみ』小熊英二 講談社現代新書 2019
*2 『人事の組み立て』海老原嗣生 日経BP 2021年