次のような話が紹介されていました(出所は失念しましたが)。
「日本の社長はアメリカの社長が従業員を解雇できてうらやましく思い、アメリカの社長は日本の社長が従業員を人事異動できてうらやましく思う。」
これは日米の人事管理の違いを良く現しています。だから、日本では解雇規制の見直しが話題になって、アメリカでは人事異動のような人材活用を取り入れようとします。人材活用のアイデアの例がタレントマネジメント。今年早々の本ブログで取り上げましたが、これは2000年代になってアメリカのコンサル・ファームが提唱したものです。この定義は他の解説に譲りますが、これを活用した有用なシステムがわが国でも普及してきました。
人事管理の歴史を振り返ると、日本はいつもアメリカを模範とし、その一方でわが国特有の労使関係に基づく人事管理のスタイルを作り上げもしました。次の文章は、昭和44年に日本で発刊された書籍からの引用です。
「世界経済の交流、技術革新の進行によって、企業をとりまく環境条件はかつて考えられなったような規模と速度をもって不断に変化をとげつつあり、人間の協同システム(system of cooporation)としての企業は、その構成員の英知と実行力によってのみこのような激動に対処しその存続を確保し得るといってよい。こうして、今日ほど企業における人間の業務遂行能力を正しく評価し、これをフルに活用することの必要性が高い時代はかつてなかったといえる。経営者、管理者が「人を見る眼」においてすぐれてる企業のみが、今後の成長発展を約束されているといっても過言ではない。」*1
「某社では人間のスキルを4000項目以上に分類し、コンピュータによって、インベントリーを作成整備しているとのことである。人事労務についてのEDP化は、ようやく③④(注:③定型的判断業務の機械化、④非定型的な意志決定の標準化)の段階に入った感がある。H社の場合、経営計画に見合うように、適切な人材を配置・育成するために、EDPシステムを、MIS(経営情報システム)の中の1つとして運営する構想を進めているとのことであり、能力管理のEDP化は今後大幅に推進されることとなろう。」*2
用語を現代風に改めればあたかもタレントマネジメントシステムを提案する一節のようです。しかし、この文章は半世紀も前のわが国における認識であります。
アメリカを模範としてわが国なりに作り上げたスタイルを、今度はアメリカがどん欲に取り入れ、さらに日本がまた逆に取り入れていく。智識を世界に求めていく姿勢が、より強く良い人事管理につながると考えます。
*1『能力主義管理<その理論と実践>』日経連能力主義管理研究会 S44.2.25 353p
*2 同上 390p (なお、本書には企業におけるコンピュータの利用段階は、①部分的業務の事後処理、②総合的業務の事後処理、③定型的判断業務の機械化、④非定型的な意志決定の標準化、だと示されている)