新しいアメリカ大統領、トランプ氏が就任式の演説の中で次のようにお話になりました。
We’ll forge a society that is color-blind and merit-based.
演説内容はたくさんのニュース記事でとり上げられそれぞれ翻訳されていましたが「merit-based」の訳語は定まっておらず、「実力主義/実績主義/能力主義」と記事によって異なるようです。この訳語に関心を寄せるのは人事屋くらいかもしれませんが、もしもこの演説の個所が、企業人事の場面を想定していたら?という前提で敢えてこだわってみたいと思います。
肌の色に関係なく仕事上の処遇を(特別な配慮をするとかではなくて)「merit-based」で行うと言ったと想定します。人間の仕事ぶりは結果(過去)と過程(現在と未来)で捉えることができ、また捉えるべきでしょう。
まず「実績」という訳語は結果だけが重視される感があります。いくらアメリカでも結果だけを重視して人材を処遇する時代ではありません。また、もし実績主義というならば results-based とでも表現するほうが相応しいかと思います。
では「能力」はどうでしょうか。日本の企業人事用語として能力主義は独特の意味を持ちます。誤解を覚悟で言えば、それは目に見えない人間性を含み、また修正年功序列という意図があって、過程・未来重視の概念といえます。少なくともアメリカ人(あのトランプ氏)が日本的な意味で能力主義と言うわけはないので、merit-based を能力主義と訳されると、特に人事屋はモヤっとするのです。
こう見てくると「実力」という言葉はちょうどよいところがあります。実際に発揮された力量であれば、結果だけでなく過程も包含し、そして顕在化した事実を重視する概念は日本人にも理解でき、実利的なアメリカの価値観にも合致した訳語といえないでしょうか。
なので、この文脈であれば「merit-based=実力主義」がふさわしいと考えるのです。