古い書籍ですが、昭和35年に発行された『わが国賃金構造の史的考察』という名著があります。冒頭の序論だけを読んでも現代の人事屋の心に突き刺さるものがあります。長文で恐縮ですが一部を引用してみたいと思います。
「さらに、最近の賃金問題の一つに職務給導入の問題が生じている。(中略)労働者の年齢別構成は漸次ピラミッド型から釣鐘型に変形しつつあるといわれ、いわゆる中年層の肥大化の現象がみられてきた。また女子をも含めた勤続年数は一般的に増加の傾向にあり、それらは結局、定期昇給制度による基本給の増加によって、企業における労務費に重大な影響を与えてきている。これに対処するためには企業側としては、(中略)労働者の従事する職務の内容に応じて賃金を支払うという職務給に脱却してゆこうとする動きが生じている。」
「さらにこの傾向を助長させる要因として技術革新の進展がある。(中略)すなわち、従来の永年勤続者の習熟型技能が陳腐化し、むしろ新しい学校卒業者の知識と適応力が需要されて来た。しかも若年層の労働市場が逼迫してくるにつれて、その賃金水準も漸次高めざるをえなくなってきている。(中略)また若年層の労働者意識が高まってきており、その面からも、従前のような低賃金で雇用されて年齢、勤続の増加に伴って高賃金へ移行していく年功序列的な賃金体系に不満を抱くようになってきているといわれる。」
「その解決策の一環として職務給の問題へと志向するようになったものと云える。」
繰り返しますが、これは昭和35年に書かれた本の引用です。あれから65年経った21世紀になっても同じ問題を繰り返し解いているということに驚きを感じます。その一方で、この問題が長年のあいだ回避されてきたのには、どのような理由、条件あるいは力学があったのか、ということにも興味があるのです。